獣医さんのお仕事 ~獣医さんの一日~
浜松市動物園には、3名の獣医師が勤務しています。
ゾウから、小型のサルまで・・体の大きさも違えば好む気候も違う、多種多様な動物たちの健康を管理するのが獣医師の仕事です。
とは言え、どんなお仕事をしているのかなかなか想像がつきませんね。
そこで、とある獣医師のある一日に密着しました!
8:30 出勤
8:40 動物病院の入院動物の管理
治療や検疫のため入院している動物に、餌(えさ)をあげたり、飼育ケージのお掃除をします。
動物病院は、動物にとって慣れない場所であったり、いつもの飼育員とは違う人にお世話されることで、動物は不安定になりがちです。落ち着いて過ごせるように気を配ります。
9:30 信頼関係づくりとトレーニング
動物と信頼関係があれば、動物の健康管理もしやすくなります。獣医師は、動物との良い関係を作れるように努力します。
例えば、ゾウのハマコ。いつも世話をしている担当飼育員は、ハマコと信頼関係があるため近づいたり、体に触れたりすることができます。 しかし、ゾウは頭がよくて神経質なため、慣れない人間は近くによせつけません。
体調を管理するには採血や投薬(注射)が不可欠ですが、いざというときに獣医師が近づけないのでは、直接診察や治療をすることができません。
そこで、獣医師も出来るだけ動物のところに行き、顔を見せて自分を覚えてもらいます。 トレーニングの成果により、現在では大型のキリンやゾウからも月に1回採血を行っています。
動物と獣医師の間に信頼関係ができれば、動物にストレスをかけず健康管理することができます。
10:00 飼育動物の見回り
動物たちの体調は毎日変化します。天気によっても体調に影響があります。 担当飼育員とコミュニケーションしながら心配事がないかなどを確認。
毎日様子を見ることで、ちょっとした変化に気付けるようにしています。
12:00 お昼休み
ほっと一息☆
13:00 治療
体調を崩した動物などがいると治療などの対処をします。例をいくつかご紹介します。
動物の体のメンテナンス
自然環境での暮らしに適応した動物たちは、飼育下では不都合なこともあります。
ユキヒョウの爪切り
高地の針葉樹林、岩場などに生息しているユキヒョウですが、動物園では柔らかい土の上で生活しているので、どうしても爪が長く伸びすぎて巻き爪になってしまうことがあります。
「爪を切る」と言っても、相手は猛獣なので、麻酔をかけての大仕事となります。また普通の爪切りでは歯が立たないので、工具のダイヤモンドカッターで切ります。また、この機会に、採血や触診といった、健康診断も行います。
ゾウのフットケア
自然下ではエサを探して一日中歩いて暮らしているゾウ。 動物園ではどうしても歩く量が減ってしまい、ツメが伸びすぎたり、足のウラからバイ菌が入って病気になってしまう場合があります。 予防のために担当飼育員がツメをカットしたり皮フの殺菌をしたりと、ケアをしています。
ケアの方法に変更があったり、普段とは違う様子が見られた場合は、担当飼育員と獣医師で相談しながら対応を考えます。
投薬
治療の1つに、薬や栄養補助食品の投与があります。 薬を飲むのは、みなさんの中にも苦手な人が多いのではないでしょうか? 動物たちも同じ。薬を飲むのは苦手なことが多く、獣医師と飼育員の腕の見せ所です。
どうやったら動物たちにストレスなく与えられるか、知恵をしぼります。注射にするか、飲ませるか。
飲ませるならタブレット(錠剤)にするか、粉薬か。
飲ませる方法は、エサに混ぜるか、かけるか、塗るか・・・など
担当飼育員と相談して決めていきます。
いつものエサに紛れ込ませたり、ちょっと苦いものだと大好物の果物に入れたり・・・と、個体の好みやご機嫌をうかがいながら(^^;)、対応します。
診察
動物だって風邪を引きます! 気分が落ち込むこともあります!
エサを食べる量が減った、動きが鈍いなどの相談を担当飼育員さんから受け、
必要があると判断した場合は動物を診察します。
検査
普段から糞尿(うんちやおしっこ)の検査もしています。みなさんは、「汚い!」と思うかもしれませんね(^^)
けれども、うんちやおしっこは、話すことができない動物からの貴重なメッセージなのです。 その動物がどれくらい食べ物を消化できているか確認したり、顕微鏡を使って寄生虫がいないか確認したりします。
動物園の動物治療のむずかしさ
さまざまな動物の健康を管理するには、以前の治療の記録や、他の獣医師の経験をよく確認することが欠かせません。 というのも、「平熱」や「脈拍」などは、動物それぞれで大きく異なるからです。
例えば、手のひらに載るような小さなサルと、巨大なゾウでは大きな違いがあります。
鳥類は40度を超えるくらいが「平熱」です。人間よりもとても高いですね。 また、ゾウの脈拍は1分間に30回かそれより少ないのです。人間は80回くらいですから、ゾウがとてもゆっくりだと分かります。
また、同じ動物でも赤ちゃんと成長してからでは全く違いますし、個体ごとに差があるのは人間と同じです。
動物園の獣医師は、それぞれの動物が今どのような状態なのか、昔の経験や動物からのヒント、さらには体温やレントゲンなどの客観的情報をもとに判断していきます。
一番気をつかうこと
ところで、診察の時に動物園ならではのとても重要なことは、何だと思いますか?
実は、「麻酔」なのです。特に、猛獣への麻酔。
体に触れて診察するためには、動物には眠っていてもらう必要があります。 しかし、麻酔薬の量が少ないと、獣医師が近づいた時に危険です。逆に麻酔薬の量が多すぎると、動物の命の危険があります。
麻酔の量は、動物の種類・個体の大きさ(体重)・前に麻酔をしたことがあればその時の効き具合・・・などを考えて決めます。
同じ種類の動物でも、麻酔が効きやすい個体もいれば、効きづらい個体もいるので、本当に難しい判断です。
そして・・・近づいて注射することはできないため、登場するのは「吹き矢」!
これを持った獣医さんが近づくと、動物たちもよく分かっていて、激しく警戒します・・・治療がこわいんです。
そこは人間とまったく一緒です。
こわがらせてごめんね・・・と心の中であやまりつつも、力強く発射!
動物のために一生懸命なのに、嫌われ役になってしまうことが多いのが獣医さんです。
なお、麻酔についての情報は全国の獣医師さんと共有し、より安全な麻酔が打てるようにしています。
亡くなった動物の死因調査
残念ながら亡くなってしまった動物について、今後の飼育や動物の保護活動に役立てるため、解剖などをして死因を調査します。
死亡動物に脂肪が多くあればエサをカロリーの少ないものに変更したり、病原菌を発見したら、他の動物たちにそれがひろがらないように対策を考えたりします。
動物の出産の立ち会い
もちろん出産に立ち会うこともあります。けれども、「朝、見たら産まれていた!」ということも、けっこうあります(^^;) ・・・さすが、動物たちは人間の力を借りなくても、生命をつなぐ力強さがあります!
16:00 動物病院の入院動物の管理
16:50 動物カルテ・日誌記入
天気・気温、見回り時のことや、担当飼育員からの話などを記録し、万一動物が体調を崩した時に、振り返って状況を確認できるようにします。
動物とは言葉が通じないだけに、よく観察して小さなシグナルでも見逃さないように気を付けています。
17:10 夕礼
1日お疲れ様でした!
17:15 業務終了
いかがでしたでしょうか?
動物たちがみな健康でいてくれれば獣医さんはのんびりできるのですが、動物園ではいつも何かしら心配ごとがあり、日々対応に追われるそうです。
最後に、獣医師からのメッセージです。
獣医師は、動物の誕生から死までを見守る仕事です。
動物の気持ちを読み取れなくてもどかしいこともたくさんありますが、案外人間と同じだなあと思うこともしばしばあります。
絶滅危惧種の飼育と繁殖に取り組むことは、とても責任の重い仕事ですが、最も間近に動物と接することができる点は本当に貴重なことだと思います。
動物に嫌われるのは悲しいですが・・・笑 これからもがんばります!