スタッフ日記
「ヒクイナ保護~放鳥までの記録」
ヒクイナとは
ヒクイナ(学名:Porzana fusca erythrothorax)は、静岡県のレッドデータブックにおいて絶滅危惧Ⅱ類(VU)に分類されています。これは「絶滅の危険が増大している種」とされ、保護の優先度が高いカテゴリーです。
ヒクイナの特徴と生態
• 分類:ツル目クイナ科(Gruiformes / Rallidae)
• 体長:約23cmほどで、全体的に赤褐色の体色が特徴
• 生息環境:主に湿地や水田、河川敷などの草地に生息
• 行動:非常に警戒心が強く、草むらに隠れて行動するため観察が難しい鳥です
• 鳴き声:夜間に「キョッ、キョッ」という鋭い声で鳴くことがあり、鳴き声で存在が確認されることも
静岡県での状況と保全課題
• 減少要因:
o 湿地の埋め立てや水田の乾田化による生息地の消失
o 外来種の影響や農薬使用による餌環境の悪化
• 保全の方向性:
o 生息地の保全と再生(湿地の復元、水田の多様な管理)
o 生息状況のモニタリングと市民参加型調査の推進
静岡県は湿地環境が豊富な地域でもあるため、ヒクイナのような湿地性鳥類の保護は、生物多様性の維持にとって重要です。県の公式サイトでは、静岡県レッドデータブックの詳細も公開されていますので、より深く知りたい場合はこちらも参考になります。
はじめに
2025年7月7日、静岡県からの依頼により保護動物として4羽のヒクイナのヒナが持ち込まれました。すぐに獣医師が診断したところ、4羽とも特に健康状態に問題はないとの事でした。念のため数日の入院生活を送った後、7月9日より飼育員の管理する仮設の保護施設へ移動しました。今回はそのヒクイナのヒナ達が成長し野生復帰するまでの記録を皆様にご報告いたします。
飼育記録
7月7日
ヒクイナのヒナ4羽が動物病院に持ち込まれる。
獣医師による健康状態のチェックを受けた後に小さな虫を与えるとよく食べる。
7月8日
よく鳴き、与えられた昆虫、配合餌等の食い付きも良好。
7月9日
摂餌や健康状態は問題なさそうなので、退院して仮設の飼育場所へ移動する。
移動直後でも餌をよく食べる。

7月10日
大きな声を出して餌を欲しがり、人への警戒心も薄れてくる。
個体識別の為に爪にマニキュアを塗る。
7月11日
手で捕まえてもあまり怖がらなくなったので、本日より体重計測開始。
体重→22・25・27・27g
7月18日
屋外に放し日光浴及び草地での歩行訓練開始。
訓練初日から草地での歩行に問題はなく、自ら発見した昆虫を捕食している。
体重→39・40・41・41g
7月24日
頭部や尾部に少し産毛が残っているが、換羽が進み体色が薄くなる。
時折はばたく動作をしている。
屋外での歩行訓練中の行動範囲が広くなってくる。
体重が保護時の2倍程度になる。
体重→51・51・52・53g

7月31日
シロフクロウが避暑の為に別室に移動しているのでその部屋を間借りする。
体重→60・60・61・63g
8月7日
広いシロフクロウ舎に移った事で十分な運動ができるようになり脚の発達が目立つ。
動きが素早くなり体重測定のための捕獲が困難になる。
捕獲時の怪我等のリスク回避のために、毎日行っていた体重測定を本日までとする。
体重→64・65・68g・捕獲不可
8月9日
換羽はほぼ完了し、側頭部や喉の付近にヒクイナの特徴である赤みがかった羽毛が生えてくる。
飛翔の頻度が増える。

8月29日
顔のまわりの赤みが増し、ほぼ成鳥と同じ体色になる。
水浴び及びプリーニング(羽繕い)の頻度が増え、羽毛がよく水をはじくようになる。
かなり高い場所まで飛び、且つはばたきの力強さが増す。

9月24日
更に風切り羽が長くなり、胸筋の発達も目立つ。
ほぼ成鳥と同じ外観になったので本日放鳥することとした。
放鳥直後は特に慌てて逃げるような仕草は見られず、付近の草陰であたりの様子を伺っていた。
夕方に放鳥場所へ行くとすでに姿は見えなかった。
念のため昨日まで使用していた餌鉢に餌を入れ、付近を撮影できるように夜間撮影が可能な動体検知機能付きカメラをセットしておいた。
翌朝カメラを回収し確認したが、何も録画されてはいなかった。
おわりに
当園ではこれまでヒクイナの飼育経験が無かったので、環境作りや育雛餌の選択には苦労しました。また野生復帰という前提があるので、人や他種生物との距離感の構築にも気を使いました。しかし当初に想定していたトラブル等は殆ど起きることは無く、なんとか無事に野性に帰すことができ、関係者一同ほっと胸を撫でおろしています。
保護から放鳥までの約2か月半、私たちは命の尊さと力強さを改めて
感じることができました。この貴重な経験を今後の飼育に生かすと共に、引き続き地域の野生動物の保護活動にも取組んでいきたいと思います。
なお、今回の放鳥は、静岡県から委託を受けて実施している「傷病鳥獣保護事業」の一環です。
そのため、動物園へ直接ご連絡いただいたり、傷病鳥獣をお持ち込みいただいても、対応いたしかねますので、あらかじめご了承ください。
詳しくはこちらをご覧ください
















