NPO法人 浜松市動物園協会 NPO法人 浜松市動物園協会
NPO法人 浜松市動物園協会
  • English
  • Português
  • 简体中文
  • 繁体中文

スタッフ日記

2022年 12月 4日
「野生シカ肉を利用した屠体給餌の取り組みについて」

浜松市動物園では、2022年10月より有害鳥獣として駆除された野生シカの肉を一部肉食動物のエサとして利用しています。
今回は野生シカ肉を利用した屠体給餌の取り組みについてご紹介します。


■屠体給餌ってなに?
毛皮や骨などが付いたほぼそのままの状態の肉をエサとして飼育動物に与えることを屠体給餌(とたいきゅうじ)といいます。

ライオン・トラなどの肉食動物は本来野生では狩りをして捕らえた獲物の肉を食べて生活しています。
動物園で飼育されているライオン等も同じように肉を食べていますが、飼育下という都合上エサとして日常的に手に入る肉は精肉が中心になります。野生では獲物を捕らえ、自分で毛皮を裂いたり骨に付いた肉をかじったりと採餌に時間がかかりますが、動物園では野生と比べてエサの肉が食べやすいため、エサを食べる時間が短くなる傾向にあります。すぐにエサを食べきってしまうため、野生だと狩り・採餌に行動時間の大部分を費やしているところが、それ以外の暇な時間が増えてしまいます。

屠体給餌は毛皮や骨などがそのまま残った肉を与えるため、食べる時間を長く取ることができます。さらにより野生に近い状態のエサということで、動物の本能的な部分を刺激し普段見られない行動を誘発するなど、飼育動物の福祉の面でも有効な手法です。

また、駆除されたシカの肉を利用しているため動物園として社会問題・環境問題に対する貢献という観点からも意義のある取り組みです。



■駆除されるシカって?
現在日本では、野生のシカやイノシシなど野生鳥獣による農作物等への被害が深刻な問題になっています。
一例として、静岡県では野生鳥獣による農作物の被害額は約2億9500万円にのぼります。また農作物への被害以外にも、森林への被害や個体数の増加による交通事故の増加など、増えすぎた野生鳥獣による獣害は様々な面で問題となっています。

このような背景から、対策として個体数をコントロールするため各地域でシカ、イノシシ等の野生鳥獣の捕獲・駆除が行われています。静岡県では1年間に22,551頭のシカが駆除されています。
※どちらも令和元年度の集計、静岡県発表資料より抜粋。


これら駆除されたシカ等は、一部がジビエ肉等として食用に利用されることもありますが、活用されているのは全体のおよそ1割程度に留まり、その大部分は処分されているのが実情です。
動物園での屠体給餌は、これら廃棄されるシカ肉を利用しています。



■浜松市動物園での屠体給餌
浜松市動物園では現在月に1回程度、アムールトラ、ライオン、クロヒョウ、ユキヒョウ、リカオン、ホッキョクグマにシカ肉の屠体給餌を行っています。

与えているシカ肉は近隣の山林で捕獲・駆除されたもので、飼育動物への感染症や寄生虫等の持ち込みを防ぐため、専用施設で内臓を除去し低温殺菌・冷凍により処理された安全なものを購入して与えています。




【動物たちの反応】

ネコ科+リカオンたちは、ほとんど全ての個体が初めて与えたときから喜んで食べています。ライオンとオスのクロヒョウたちは豪快に骨まで丸ごと食べていたり、ユキヒョウ・メスのクロヒョウは時間をかけてきれいに毛皮を取り除いて骨の周りの肉を食べていたりと、楽しみ方は個体によって様々。


一方、ネコ科’sの中ではアムールトラのソーンのみ、あんまり好きじゃないのか見慣れないからなのか、数口かじる程度でほとんど食べないです。(野生での)アムールトラの主な獲物はヘラジカとイノシシなんですが、動物園生まれだと好みも変わるのかな?

↑食べないソーン


ホッキョクグマではバフィンは肉を剥ぎ取り骨だけにすると骨をガシガシ食べ、興奮した様子でその日は骨に夢中でした。
モモは初めは嗅ぎ慣れない匂いなのか警戒し食べませんでした。翌日皮だけ与えると食べ、次の日にウンチに毛が入っていました。



シカ肉の屠体給餌は現在毎月第4日曜日に行っています。(飼養管理の都合により変更する場合があります。)
運がよければ一部の動物では、シカ肉を食べているところが見られるかもしれません。



■屠体給餌の取り組み
屠体給餌は近年、少しずつ各地の動物園で実施されるようになってきました。まだまだコスト面など課題もありますが、これまで捨てられていたシカの肉を活用することで、飼育動物の福祉向上とともに問題となっている有害鳥獣対策にもなりうる取り組みです。

一見少しグロテスクだったり、シカが可哀想だと思ったりしてしまいがちですが、飼育動物のより肉食動物本来の姿に近い行動を引き出すことができること、駆除されたシカを無駄にせず有効活用していることなど、屠体給餌の取り組みには様々な利点があります。

もし動物園で屠体給餌を見かけたら、動物たちのシカ肉に対する反応を見るとともに、こんな取り組みがあるんだということを知っていただけたら嬉しく思います。


浜松市動物園サポーター募集

NPO法人 浜松市動物園協会