スタッフ日記
「ユキヒョウの繁殖の取り組み結果について」
(追記)リーベの経歴に記載ミスがあったため訂正しました。
浜松市動物園では、昨年から国内のユキヒョウの繁殖計画に基づき、コハク(オス 11歳)とリーベ(メス 16歳)の繁殖を目指して取り組んでまいりましたが、残念ながら今シーズンの繁殖には至りませんでした。
以下、今シーズンの繁殖に向けた取り組み結果についてご報告します。
【個体来歴】
●コハク(オス) 写真左
2008年4月9日 多摩動物公園生まれ
2009年5月29日 名古屋市東山動植物園へ移動
2018年2月5日 浜松市動物園に来園
●リーベ(メス) 写真右
2003年5月12日 ポーランド Krakow動物園生まれ
2006年7月28日 ドイツ ニュールンベルグ動物園より札幌市円山動物園へ移動
2018年2月17日 浜松市動物園に来園
○2009年、2011年に出産経歴あり
【繁殖に向けた取り組み】
2018年2月上旬 名古屋市東山動植物園よりコハク来園
2018年2月中旬 札幌市円山動物園よりリーベ来園
●コハクの性格等を考慮し、ユキヒョウの繁殖シーズン前の夏頃からペアリングに向けた取り組みを実施(詳細は過去のユキヒョウの記事をご覧ください)。
8月下旬 柵越しでの顔合わせを開始、以降不定期で実施
10月頃~ お互いのニオイを嗅がせるため運動場の入れ替えを行う、以降不定期で実施
11月中旬 初同居、以降不定期で実施
12月18日~12月28日(10日間) リーベ発情 シーズン初
○期間中のマウント・交尾:計50回
●コハクがリーベに近付くのを怖がり腰が引けているが、発情後半から少しずつ近づけるようになる。交尾後コハクがすぐに飛び退くため交尾が最後まで成立しているか微妙な場合がほとんどだが、最低でも数回は交尾が成功していると仮定する。
↓約2ヶ月で発情回帰
3月6日~3月10日(5日間) リーベ発情 シーズン2回目
○期間中の交尾:計64回
●コハクも交尾が上達したのとリーベに対する慣れが出てきたようで、積極的に交尾行動を行う。交尾中の発声や交尾後の行動もみられるため、交尾自体はほぼ確実に成立していると判断する。
3月中旬 リーベの寝室内に産箱を設置
4月上旬 (初回交尾で妊娠していた場合の出産時期)
→出産なし、兆候もみられないため1回目の交尾では妊娠に至らずと判断する。
4月上旬 同居終了、これ以降は別居飼育
●この時期からお互いあまり興味を示さなくなる。またコハクがリーベを嫌がる頻度が多くなってきたため、以降同居は実施しない。柵越しでの顔合わせなどは継続させる。
4月上旬 リーベの食欲増進傾向
5月中旬頃 前回の発情周期67日前後で発情回帰なし、シーズン中の発情終了もしくは妊娠しているかのどちらかと判断する。
●ユキヒョウの妊娠期間は90日~105日程度といわれているため、妊娠している場合の出産時期を6月4日(初回交尾から90日)~6月23日(最終交尾から105日)と推定、また高齢で出産時期に狂いが出る可能性を考慮し、5月下旬~6月末までを出産の可能性がある期間と設定する。
5月中旬 リーベ食欲減退傾向、日中休んでいる時間が少しずつ増えてくる。
5月中旬 寝室の空調設備入れ替え
5月下旬 産箱内にカメラ設置
5月下旬 リーベやや腹部の膨張がみられる、以降少しずつ大きくなる。
6月下旬 リーベの腹部の膨張やや小さくなる。
6月下旬 リーベ活動が活発になる。食欲も増進傾向。
●出産の可能性のある期間としていた6月末までに出産はなく、またリーベの様子から出産が遅れている可能性もなさそうなことから、今シーズンの出産はないものと判断する。
【ユキヒョウ担当から】
今シーズン、2頭の交尾までは実現したものの、残念ながら繁殖には至りませんでした。担当者としては悔しいというのが正直な気持ちですが、今回の結果をよく分析して、今後どうしていくのがコハクとリーベにとって良いのかを考えていきたいと思います。
ペアリングにあたり、一番心配していたのはコハクが交尾できない(リーベに近付けない)のではないかということでした。実際、発情前の同居ではコハクはリーベが近付くと跳んで逃げる、リーベの発情が来ても最初はビビって逃げる、と懸念していた通りになっていました。そんなコハクが最終的に交尾までできるようになったのは、間違いなくリーベのおかげだと思います。シャーシャー威嚇しているコハクに怒りもせず、時には遠くから、時には距離をつめてアプローチをしていたリーベにはとても驚きました。12月26日、初めて交尾姿勢を取った時の光景は今でもよく覚えています。気長に上手く立ち回り続けたリーベと、(きっと)一瞬勇気を振り絞ったコハクの頑張りがあったからこその「交尾」という結果だと思います。
交尾経験のない個体が、交尾姿勢が上手く取れず交尾に失敗するというのは、動物の世界では珍しくありません(もちろん最初から問題なくできる個体もたくさんいますが…)。交尾が上手くいかずメスに怒られて、メスに近付くこと自体を怖がるようになってしまう、ということもあります。そのため、今回交尾経験のなかったコハクが特にトラブルなく交尾の経験を重ねられたことは、それだけでも一定の成果だと考えています。繁殖には結びつきませんでしたが、今回コハクが交尾までこぎつけられたのは、コハクのペアリング相手がリーベだったからではないかと私個人は思っています。
結果だけみれば繁殖に向けた取り組みは失敗という形ですが、今回コハクが積んだ経験は、仮にこの先リーベとの繁殖が難しいということになったとしても、きっと未来に繋がる大きな財産になったのではないかと思います。
さて、繁殖シーズンは終わりましたが、ユキヒョウ達自身は気にせず普段と変わりなく元気に過ごしています。浜松市動物園に来てからもうすぐ1年半になりますが、浜松での暮らしにいっそう馴れてきたのか、夕方呼んでも部屋に帰って来ない、ワガママになってきたコハクや、妙に人懐っこくなり掃除をしていると跳びついてくるリーベなど、今までとはまた違った行動も見せるようになってきています。これから夏になりユキヒョウ達には大変な季節がやって来ますが、寝室のエアコンも新しくなりより快適に過ごせるようになったと思いますので、ぜひ元気なコハクとリーベに会いに来ていただければ嬉しいです。
※夏季は健康管理のため、エアコンを付けた室内と外の運動場を自由に出入りできるようにしています。ユキヒョウが室内にいるときはご覧になれない場合がありますが、ご理解をお願いいたします(真夏の暑い日でもちょこちょこ外にも出ます)。
【今後について】
来シーズン以降もコハクとリーベのペアを継続させて繁殖を目指すかは現時点では未定です。今後国内のユキヒョウの繁殖計画や他のユキヒョウのペアリング状況等を考慮しながら、関係園館等と協議をして方針を決定します。